園子温『ラブアンドピース』

 

若い頃に書いた脚本をそのまま使って作った作品とのこと。

ピカドンとラブアンドピースが識別できなくなってるあたりが、一つ面白さ。ピカドンそのものは戦争・非平和の象徴だけど、「忘れない」という述語がつくと、非平和的な意味合いが薄れて、平和自体とほぼ同義になる。つまり、必ずしもピカドンとラブアンドピースは対立するとは限らないだろうと。

たぶん、そういう悲惨な出来事を忘れることで前に進もうとする人の方が多数を占める現代社会のなかで、忘れないことも大事なことじゃないかと訴えているような気がする。おもちゃの世界の中で、過去を忘れようとしているおもちゃの方が多いのは、現代社会の反映のような気がするけどどうでしょ。
サンタとおもちゃの世界では、マリアは悲惨な出来事を(おそらく美化しつつ)覚えているけど、他のおもちゃたちはみんな忘れてしまおうとしているからね。

じゃあその中でサンタおじさんはどうしてるかってのもポイントではある。サンタは、彼らの記憶をリセットしてやり直させようとするけど、黒猫のセリフにもあるように、それは悲劇を繰り返すだけの結果に終わるかもしれない。
余談だけど、サンタに関しては現代社会の一種の「迷信」としてサンタは存在してて、そういう対象に園子温なりの物語を描くってことは、ぼくらの日常の中にこの映画が入り込んでくる感じがして、好きなポイントではある。

話を戻すと、この映画は、悲惨な過去を忘れるべきか否かに関して、色んな側面が描かれていると思う。悲惨な出来事を忘れることで平和に到達できるのか、悲惨な出来事を忘れないことで平和に到達できるのか、ってのは多分人によって意見が分かれるし、議論の余地のあるところだとは思うけど、この映画はそれを考える材料になるかもしれない。